(歌は模倣である。

しかしあらかじめ存在する何物をも模倣することがない模倣である。歌は「謎」を模倣する。謎を模倣することで、歌は人間を作り、世界を作るのである。音楽の謎とは、この世界のなかで人間がある還元できない特異な次元を形成してしまうことの謎である。)

(形式主義者は、音楽は抽象的な音構成自体以外の何ものでもなく、それ以上解釈の余地などない、と主張するかもしれない。しかし私達は、事実、「絶対音楽」にも、多くの感情を聴き出す。人間にとって、音楽は、表現内容を伝達するための媒体ではないが、同時に、純粋に抽象的な音構成体でもない。音楽は(あらゆる曲は)、人の生のうちで解かれることを待っている謎である。
 私が作曲に惹かれて止まないのは、まさに、制作への専念が、謎の音楽的存在を―すなわち、真剣に解きたいという欲望を私自身のうちに引き起こす謎としての曲
を―産み出すからである。私は、この、真剣に解きたいという欲望を引き起こす謎を、私にとっての「美」と呼び変えてもよいと思う)