宮廷画家ゴヤは見た(2006)Goya's Ghost

DVDで。
ハビエル・バルデムが異端審問官でステラン・スカルスガルドが画家フランシスコ。ナタリー・ポートマン(のちの『ソー』繋がり)がユダヤ教徒の疑いをかけられて呼び出され尋問が始まるのかと思いきや、いきなり逆さ吊りで拷問に。
『真実を!』と人相の悪い狂信者どもに責められて、海老ぞりつつ『何が真実なのか教えて!!』と絶叫するというのもいささかありきたりだが、だからこそ本当に陰鬱な感じで、こうゆう目に合わない確率の高そうな地域、時代にいまのところは生きていることの幸運を思った。
脚本(ミロシュ・フォアマン監督とジャン・クロード・カリエールの共同執筆。フォアマンの今世紀に入ってからのただ一本で今のところ最新作)は一つの筋に入り込みそうになると次のシークエンスへと、必ずしも優雅とかリズミカルとは言えないようなテンポで移っていく感じがあって興味深い(その分集中できない)。
粋な感じでアトリエに颯爽と現れ馬に見立てた木で出来たフレームの上でポーズを決めるマリア王妃(ブランカ・ポルティロ)と息も良くあっていたかに見えた画家だが、のちに完成まで秘密にしていた肖像画を国王夫妻の前に除幕してお披露目、と、そこにはあからさまにいやな感じにデフォルメされた顔が。憤然と席を立つ王妃、画家は別室に呼び出されて王のたどたどしいチェロの自作演奏を一くさり聴かされて感想を求められ、あーモーツァルトですかな、などとお世辞をしどろもどろに述べたと思ったら、扉がばぁーんと開かれて『大変です! ナポレオンの軍が!』(1792年)とゆうところの流れとか。
『原子とか言い出す奴は異端!』とか。
『どんなに信仰の深いものでも強く責め立てられたら、自分がトルコの王だと認めるかも』『いやそんな馬鹿な』などというまぬけな会話があったり。
↓(ネタバレかも?)
バビエル異端審問官が、自分ってほんとはオラウータンとチンパンジーの間にできたbastardなんですとの書類に署名を強制させられて、行方をくらませたのち15年、バリバリの啓蒙主義者になって共和国軍とともに亡命先のフランスから舞い戻ってくるというのも面白く、ヴォルテールとか読んで強烈な回心を体験したんだよ〜と目を潤ませて画家に語るバビエルになぜか白々しいものを感じていたら、最後にはそのまま主義に殉じて、反攻反動に転じて盛り上がる民衆の皆さんの前に三角帽を被せられ、ロバに乗せられ引きずり出され、英軍の後ろ盾を得て即位した新国王一家の長のバルコニーの上からの合図ひとつで、困惑しているかつての教会の上司同僚たちの手によってあっさり首をひねられ哀れいっかんの終わりでございというのがもう一体どうゆうことなのか....
原題のGhostとは、画家の観た(であろう)この混乱の時代trouble timesの様々な劇を象徴する実在またはフィクションの登場人物たちのことであるよりも、残された版画集の中の人や怪物、妖怪たちの描写のデティールから、この映画の作り手(たち)が逆観した、この体制が変われば顧客を変えるwhoreめ!と罵倒されつつも時代の記録者として眼鏡姿で黙々と現場の片隅でスケッチを続ける男の姿のことであるかも知れない。
期待していた晩年の話はなかった(そおゆう映画もあるのかな?)
王妃の乗馬服の赤と黒がきれい。音楽がいまいち....